経済学の動学的最適化や計量経済学の推定理論を学んでいると、「関数列の収束」という壁にぶつかることがあります。
「各点収束」と「一様収束」
言葉は似ていますが、その性質には決定的な違いがあります。
一言で要点をまとめると、
一様収束は各点収束よりも強い概念
となっています。
この記事では、数式が苦手な方でもイメージを掴めるよう、グラフや具体例を交えてこの2つの違いをわかりやすく解説します。
Contents
イメージでつかむ「各点収束」vs.「一様収束」
数学的定義は後に回し、まずはイメージでの理解を説明します。
「各点収束」は個別の点での追いかけっこ
まず、各点収束 (pointwise convergence) について説明します。これは、ある点 \(x\) を一つ固定したときに、その点での値 \(f_n(x)\) が \(f(x)\) に近づいていく状態を指します。
- イメージ: 各 \(x\) 地点に観測者がいて、「自分の地点では目標値に近づいた!」とバラバラに報告している状態。
- 弱点: 点によって収束のスピードがバラバラでも許されます。そのため、収束先の関数 \(f(x)\) が元の \(f_n(x)\) の性質(連続性など)を引き継がないことがあります。
「一様収束」は関数全体のパレード
一方で一様収束 (uniform convergence) は、すべての \(x\) において「同時」かつ「一斉」に収束することを要求します。
- イメージ: 関数全体が、目標の関数 \(f(x)\) を中心とした「一定の幅(バンド、チューブ、またはスリーヴ)」の中にすっぽり収まるように近づいていく状態。
- 「一様」の意味: どの \(x\) をとっても、収束のスピードに「手抜き」がないということです。
どちらが強いか?
結論、一様収束の方が、各点収束よりも強い概念です。
すなわち、関数列 \( f_{n}(x) \) が関数 \( f(x) \) に一様収束するならば、関数列 \( f_{n}(x) \) は関数 \( f(x) \) に各点収束します。
重要!
一様収束は各点収束より強い!
具体例:一様収束しない関数列 \(x^{n}\)
一様収束しない有名な例として、\(x^{n}\) \((0\le x\le 1)\) を紹介します。 \(n\) を大きくすると、\(x=1\) 以外では \(0\) に収束しますが、\(x=1\) では常に \(1\) です。
- 収束前の \(x^n\) はすべて連続なのに、収束先は \(x=1\) でパツンと切れた不連続な関数になります。
- これが「各点収束だけでは不十分」であることの証明です。
\(\varepsilon-\delta\) 論法を使った数学的定義
それでは、より正確に「各点収束」と「一様収束」を理解するために、数学的定義についても理解しましょう。(簡単のため、ここでは定義域は \(X\) であるとします)
まずは「各点収束」から定義します:
定義A(各点収束)
関数列 \( \{ f_{n} \} \) が関数 \( f \) に各点収束 (pointwise convergence) するとは:
\[ \forall x\in X \qquad \lim_{n\to\infty} f_{n}(x) = f(x) \]
が成り立つことである。
一方で「一様収束」の定義は以下のようになります:
定義A(一様収束)
関数列 \( \{ f_{n} \} \) が関数 \( f \) に一様収束 (uniform convergence) するとは:
\[ \lim_{n\to\infty} \sup_{x\in X} \left| f_{n}(x) - f(x) \right| = 0 \]
が成り立つことである。
先ほど説明した通り、各点収束の方は、先に \(x \in X\) という点が固定されています。そのため、\( f_{n}(x) \) たちは「値」として \(f (x) \) という「値」に収束します。
一方、一様収束では、どんな \(x\) を選んだとしても \( |f_{n}(x)-f(x)| \) が収束するようになっています。
これらの定義は、\(\lim\) の定義を使って、以下のように書き換えることができます:
定義B(各点収束)
関数列 \( \{ f_{n} \} \) が関数 \( f \) に各点収束 (pointwise convergence) するとは:
が成り立つことである。
定義B(一様収束)
関数列 \( \{ f_{n} \} \) が関数 \( f \) に一様収束(uniform convergence) するとは:
が成り立つことである。
「各点収束」「一様収束」ともに、\(\lim\) の定義を使って書き換えただけなので、それぞれの定義Aと定義Bは同値です。
ここで、定義B(各点収束)と定義B(一様収束)を比較してみましょう。
各点収束では、2番目と3番目が
\[ \forall x\in X \quad \exists N\in\mathbb{N} \]
という順番になっていますが、一様収束では、
\[ \exists N\in\mathbb{N} \quad \forall x\in X \]
という順番になっています。
集合論などの授業で学習する通り、先に \(\exists\) があって次に \(\forall\) という順番の方が強い条件となります。
そのため、各点収束よりも一様収束の方が強い概念であるということを、機械的に確かめることができます。
具体例:一様収束しない関数列 \(x^{n}\)
先ほどの具体例を今度は数学的定義に基づいて考えてみましょう。
関数列 \( f_{n}(x) = x^{n}\) \((0\le x\le 1)\) は関数
\[ f(x) = \begin{cases} 0 \quad (0 \le x < 1) \\ 1 \quad (x=1) \end{cases} \]
に一様収束しないのでした。
これを先ほどの定義Aを使って確かめてみましょう。
例:関数列 \(x^{n}\)
- \[ \lim_{n\to\infty} \sup_{x\in X} \left| f_{n}(x) - f(x) \right| = 1 \ne 0 \] であるため、一様収束しない。
- \[ 0 \le x < 1:\qquad \lim_{n\to\infty} f_{n}(x) = \lim_{n\to\infty} x^{n} = 0 = f(x) \]が満たされるため、各点収束する。
\[ x=1:\qquad \lim_{n\to\infty} f_{n}(x) = \lim_{n\to\infty} x^{n} = 1 = f(x) \]
よって、関数列 \( f_{n}(x) = x^{n}\) \((0\le x\le 1)\) は関数 \( f(x) \) に各点収束するが一様収束しないことが確かめられました。
まとめ
各点収束と一様収束は、マクロ経済学の動学的最適化や、計量経済学の Extreme Estimator で登場する、大学院コア科目において非常に重要な概念です。
まとめ
- 定義:各点収束は、点 \(x\in X\) を固定してから極限をとるのに対し、一様収束は、\( \sup_{x\in X} \) に対して極限をとる
- 一様収束は各点収束より強い!