経済学のための数学

【ルベーグ積分】優収束定理(DCT)をマスターする!〜極限と積分の順序交換を攻略〜

経済学では、

「期待値の極限」や「積分の順序交換」

という操作に頻繁に出会います。

この交換はいつでもできるわけではなく、条件があります。

この交換を数学的に正当化する最強の武器が「優収束定理(Dominated Convergence Theorem: DCT)」です。

本記事では、ルベーグ積分の収束定理のうち、経済学における核心である優収束定理を丁寧に解説していきます。

優収束定理(DCT)とは

一言で言うと、優収束定理(DCT)とは、

極限(\(\lim\))と積分(期待値 \(E[\cdot]\))の交換を許す定理、
そしてそのための条件を与えてくれる定理

です。

この正確な内容を見てみましょう。

優収束定理 (DCT)

\( \left( X,\mathcal{M},\mu \right) \) を測度空間とする。その上の可測関数列を \( \{ f_{n} \} \) とし、以下を仮定する:

  1. \( f_{n} \stackrel{n\to\infty}{\longrightarrow} f \)
  2. 以下を満たす可積分な関数 \( g \) (すなわち \( \int |g| d\mu < \infty \))が存在する:

\[ \forall n \quad \left| f_{n} (x) \right| \le g(x) \]

このとき、\( f_{n} \), \( f \) は可積分で、

\[ \lim_{n\to\infty} \int f_{n} d\mu = \int \lim_{n\to\infty} f_{n} d\mu \]

が成り立つ。

なお、このときの関数 \( g \) を優関数 (dominating function) という。

この定理の凄さは、「各点の収束(関数の形が近づくこと)」から「積分の収束(面積・期待値が近づくこと)」を保証してくれる点にあります。

そして、そのための唯一の代償が「暴走しないためのストッパー」としての関数 \( g \) の存在です。

定理についてもう少し細かく解説

DCT においてもっとも重要なのは、

重要!!

優関数 \( g \) は \( n \) によらない!!

という点です。

  1. 定理の statement が \[ \exists g \quad \forall n \quad \left| f_{n} (x) \right| \le g(x) \] となっていることに気をつけてください。量化子の順番が \[ \exists g \quad \forall n \] なので、強い仮定です。量化子で考えれば、\( g \) が \( n \) によらないことがすぐにわかります。
  2. \[ \left| f_{n} (x) \right| \le g(x) \] なので、\( g \ge 0 \) です。なので、\( g \) が可積分である条件は \( \displaystyle \int g d\mu < \infty \) とも書けます(そう記述している教科書も多くあります)。
  3. 定理の結論部分ですが、\[ \lim_{n\to\infty} \int \left| f_{n} - f \right| d\mu = 0 \] という結果も従います。
    ただし、経済学で実際によく使うのは、\[ \lim_{n\to\infty} \int f_{n} d\mu = \int \lim_{n\to\infty} f_{n} d\mu \] の方です。
  4. 仮定1. の関数列の収束は、「各点収束」です。

Fatou の補題から導く証明

DCTの証明には、ルベーグ積分論における基本的かつ強力なツールである「Fatou の補題」を用います。

前提:Fatou(ファトゥ)の補題とは

Fatou の補題

\( \left( X,\mathcal{M},\mu \right) \) を測度空間とする。

非負の可測関数列 \( h_{n} \ge 0 \)​ に対して以下が成立する。

\[ \int \liminf_{n\to\infty}\ h_{n} d\mu \le \liminf_{n\to\infty} \int h_{n} d\mu \]

証明のステップ

DCTを証明するために、優関数 \( g \) を使って「常に非負となる関数列」を2つ作ります。

証明のカギとなる第一ステップは、\( |f_{n}| \le g \) を

\[ -g \le f_{n} \le g \]

と分解することです。

① 下からの評価(\( \int f \le \liminf \int f_{n} \)​ の証明)

\( |f_{n}| \le g \) を展開することにより、\( g+f_{n}\ge 0 \) が成り立ちます。この非負の関数列に Fatou の補題を適用します。

\[ \int \liminf_{n\to\infty} \left( g + f_{n} \right) d\mu \le \liminf_{n\to\infty} \int \left( g + f_{n} \right) d\mu \]

\( g \) は \( n \) に依存しないので、上の不等式は

\[ \int g\ d\mu + \int f\ d\mu \le \int g\ d\mu + \liminf_{n\to\infty} \int f_{n} d\mu \]

と書けます。\( g \) は可積分(\( \int g\ d\mu < \infty \))であるため、両辺から \( \int g\ d\mu \) を差し引くことができ、次を得ます。

\[ \int f\ d\mu \le \liminf_{n\to\infty} \int f_{n}\ d\mu \quad \cdots \ (\text{A}) \]

② 上からの評価(\( \limsup \int f_{n} \le ​\int f \) の証明)

同様に、\( g - f_{n} \ge 0 \) という非負の関数列を考えます。

\[ \int \liminf_{n\to\infty} \left( g - f_{n} \right) d\mu \le \liminf_{n\to\infty} \int \left( g - f_{n} \right) d\mu \]

左辺は \( \int(g−f) \) です。右辺は \( \liminf(\int g−\int f_n​) \) ですが、下限の性質から \( \liminf(−a_{n}​)=−\limsup a_{n} \)​ となるため、

\[ \int g \ d\mu - \int f \ d\mu \le \int g \ d\mu - \limsup_{n\to\infty} \int f_{n} \ d\mu \]

再び \( \int g \) を差し引いて整理すると、符号が反転して次を得ます。

\[ \limsup_{n\to\infty} \int f_{n} \ d\mu \le \int f \ d\mu \quad \cdots \ (\text{B}) \]

③ 完結

(A) と (B) を組み合わせると:

\[ \limsup_{n\to\infty} \int f_{n} \ d\mu \le \int f \ d\mu \le \liminf_{n\to\infty} \int f_{n}\ d\mu \]

数学の定義上、常に \( \liminf \le \limsup \) ですから、これらはすべて等号で結ばれるしかありません。ゆえに、極限 \( \displaystyle \lim_{n\to\infty​} \int f_{n}\ d\mu \)​ が存在し、それは \( \displaystyle \int f\ d\mu \) に等しいことが証明されました。

DCT から導かれるその他の有用な定理

DCT は積分論において極めて強力なツールです。DCT を用いて他の有用な事実をいくつか導くことができます。

有界収束定理

有界収束定理

\( \left( X,\mathcal{M},\mu \right) \) を \( \mu(X)<\infty \) を満たす測度空間とする。その上の可測関数列を \( \{ f_{n} \} \) とし、以下を仮定する:

  1. \( f_{n} \stackrel{n\to\infty}{\longrightarrow} f \) (各点収束
  2. 以下を満たす定数 \( M < \infty \) が存在する:\( \forall n \quad \left| f_{n} (x) \right| \le M \)

このとき、\( f_{n} \), \( f \) は可積分で、以下が成立する。

\[ \lim_{n\to\infty} \int f_{n} d\mu = \int \lim_{n\to\infty} f_{n} d\mu \]

この有界収束定理は、DCT を認めればただちに導くことができます。

\( \mu(X)<\infty \) なので、\( M \) という定数関数が可積分な優関数となります。(\( \int M\ d \mu = M \mu(X) < \infty \) なので \( M \) は可積分です)

よって、DCT の仮定2. が満たされるため、DCT を適用することで有界収束定理が証明できます。

微分と積分の交換定理

微分と積分の交換定理

\( I \subset \mathbb{R} \) を開区間とし、\( f: I \times \mathbb{R} \to \mathbb{R} \) を以下を満たす関数とする:

  1. 任意の \( t \in I \) に対して \( f \left( t, \cdot \right) \) は可積分である。
  2. 任意の \( x \in \mathbb{R} \) に対して \( \displaystyle \frac{\partial}{\partial t} f \left( \cdot, x \right) \) が存在する。
  3. 任意の \( t_{0} \in I \) に対して、以下を満たす定数 \( \delta > 0 \) と可積分関数 \( G \) が存在する:

\[ \sup_{|t-t_{0}|<\delta} \left| \frac{\partial}{\partial t} f \left( t, x \right) \right| \le G (x) \]

このとき、

\[ \frac{d}{dt} \int f\left( t,x \right) dx = \int \frac{\partial}{\partial t} f\left( t,x \right) dx \]

が成り立つ。

この微分と積分の交換定理は、導関数に対して優関数が存在することから、DCT を使ってすぐに導くことができます。

経済学では、期待値と微分を入れ替える際に多用します。

単調収束定理(MCT)

ルベーグ積分論・測度論で習う重要な収束定理として、以下の3つが挙げられます。

  1. 優収束定理(DCT)
  2. 単調収束定理(MCT)
  3. Fatou の補題

これらは通常の教科書や授業で必ず習う定番の3本柱ですが、DCT を仮定することで、MCT と Fatou を導くことができます。

もちろん、上で示した通り、Fatou の補題を仮定することで DCT を示すこともできます。

一般的なのは、

MCT → Fatou の補題 → DCT

という風に、MCT を積分の構成によって初めに示し、MCT を仮定することで Fatou の補題を示し、そして Fatou の補題を示すことで DCT を証明するという流れです。

経済学におけるDCTの重要性

経済学では、計量経済学における推定量の一致性(Consistency)の証明や、尤度関数の極限操作において、このDCTは空気のように使われます。

Extremum Estimator における一致性の十分性

Extremum Estimator において一致性を示す際、目的関数 \( Q \) の連続性が一つの十分条件です。

この関数 \( Q \) の連続性(以下、CQ)を確かめることが難しい場合、DCT を使うことによって確かめることができます。このことを少し深掘りしてみましょう。

以下では \[ Q (\theta) = E[g(w, \theta)] \] の形(\( w \) はデータ、\( \theta \) はパラメーター)をしていて、\( g \) も \( Q \) も1次元値の関数であるとします。OLS や MLE がこの形式の例です。

Q の連続性の十分条件

\[ Q (\theta) = E[g(w, \theta)] \] とする。以下を仮定する:

  1. \( g (w,\theta) \) は確率 \( 1 \) で各点 \( \theta\in\Theta \) で連続である。
  2. \[ E\left[ \sup_{\theta\in\Theta} \left| g(w,\theta) \right| \right] < \infty \]

このとき、\( Q \) は \( \Theta \) 上で連続である。

上記を DCT を使って証明したいと思います。

まず、点 \( \underline{\theta} \in \Theta \) を任意にとり、固定します。証明では、点列での連続性の定義を用います。

証明

  1. 上記の仮定 1. により、\( \theta_{k} \longrightarrow \underline{\theta} \) (\( k \to \infty \)) なる点列に対し、\[ g(w,\theta_{k}) \longrightarrow g(w,\underline{\theta}) \] が確率 \( 1 \) で成り立ちます。
  2. \[ \left| g(w,\theta_{k}) \right| \le \sup_{\theta\in\Theta} \left| g(w,\theta) \right| \] が \( \sup \) の定義から成り立ちます。さらに、右辺の \( \sup_{\theta\in\Theta} \left| g(w,\theta) \right| \) は上記の仮定 2. により可積分です。
  3. よって、DCT により、
    \[ \lim_{k\to\infty} E\left[ g(w,\theta_{k}) \right] = \underbrace{ E\left[ \lim_{k\to\infty} g(w,\theta_{k}) \right] }_{ = E\left[ g(w,\underline{\theta}) \right] } \]

    すなわち
    \[ Q(\theta_{k}) = E\left[ g(w,\theta_{k}) \right] \longrightarrow E\left[ g(w,\underline{\theta}) \right] = Q(\underline{\theta}) \]
    という \( Q \) の連続性が従います。(証明終)

まとめ

優収束定理(DCT)は、ルベーグの3つの収束定理のうち、経済学において最も重要な定理です。

実際、さまざまな場面で使うことがあるので、よく理解し、習熟しておくことをオススメします。

大事な Takeaway メッセージとしては、

DCT(まとめ)

  • 極限(\(\lim\))と積分(\(E[\cdot]\))の交換をするためには、可積分な優関数 \( g \) の存在をチェック!
  • \( g \) は \( n \) によらない!

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